
20年目の知恵
平松愛理さんとのお仕事は実に約20年ぶり。最初は「もう笑うしかない」という曲で、レコード会社のオフィスを借り切って、ある商社に見立てて撮影したのを想い出します。ちょうどお盆シーズンだったのでオフィスが借りられた記憶があります。これがご縁で、「部屋とYシャツと私」を作らせて頂くことになりました。この曲は既に世に知られていましたがPVが存在しておらず、「もう笑うしかない」を含むミュージッククリップ集を作る時に初めて撮影したものでした。プロデューサーから発注の電話を頂いたのが「ゴーストスープ」というドラマを撮っている最中で、あれは12月初旬。3月、撮影現場に「フライドドラゴンフィッシュ」というドラマのシナリオを持ち歩いていたのを憶えているので、その間に「部屋とYシャツと私」を含む何本かのPVを撮ったのだと思います。
あれから20年。その頃生まれた子供は20歳。考えてみてください。僕が生まれる二十年前は1943年です。まだ太平洋戦争のまっただ中。そこからの20年と比べると、この20年は何も変わっていないように思えてしまいます。ITの世界は大きく変わったものの、目に見える風景には些かの違いもない気がします。戦後からの変化に比べると。久しぶりの平松さんもお変わりなく、新しい曲は「いいんじゃない?」。拝聴すると、いい感じに緩くて、優しく肩をポンと叩かれたようで、平松さんらしい素敵な曲だなと感じました。その印象をそのまま映像にしてみることにしました。
「もう笑うしかない」の頃の二十代の自分は頑張ってました。平松さんもきっとそうだったでしょう。今もきっと僕ら変わらず頑張ってると思いますが、「もう笑うしかない」ぐらい頑張っていた二人が二十年の歳月を経て、頑張りながらも「いいんじゃない?」と思える知恵を見出したのかも知れません。(11.1.2012)